第8回サッカーサイエンス研究会 大盛況!

 4月15日(月)に開催された第8回サッカーサイエンス研究会は大盛況でした。「戦術的ピリオダイゼーション(PT)にもとづくトレーニングメニューの設計原理」と題して東京大学大学院の相原健志氏に講演いただきましたが、先行論文結果にもとづいて、とてもわかりやすく解説してくださいました。 また、参加者の皆さんからも大変多くの質問があり、議論も活気づいていました。

 

講演の流れは

1. 戦術的ピリオダイゼーションの歴史

2. 最大の原理: 特異性

3. 特異性と思考

4. 週単位の配分: 戦術的強度に即した諸原理

5. 総括

です。

 

 PTは1960~70年代にポルト大学スポーツ学部 Vitor Frade教授によって考案され、90年代からポルト市を中心に発展してきた考え方。近年ではReal Madrid C.F.のMourinho監督やRui Fariaコーチらによって多くの成果が出されたことで注目を集めています。

 

 PTの根幹にある考え方は、より思考力を高めるために実際に思考し続けることであり、最大の原理はサッカーの「特異性」にあると考えているようです。サッカーは常に変化し続ける自然現象(=カオス)であり、チームはその自然の中に存在する生命体ととらえているとのこと。つまりサッカーにおいては一つとして同じ状況、適応、行為、選手、相互作用の仕方もなく、全ての瞬間が特異的であるため、それに応じたトレーニングを常に開発し続けなければならないという立場をとっているそうです。非常に興味深い話しでした。

 また、PTにもとづいて週単位のトレーニングを設定する際には、「戦術的強度=思考量(圧)」ととらえ、特異性が強く、また思考圧が高い練習が最も強度の高い練習と位置づけている点も興味深いところです。

 

 本講義の中で印象に残った言葉は、「現在の直感の質は、過去の思考経験の質に依存している(Antonio Damasio*)」です。いま良く思考できるのは過去に良く思考してきたからであり、未来に良く思考するには、いま良く思考する努力をせねばならない(相原氏 資料より)。自身に深く刻んでおく必要があると感じました。

 

 講義後の懇親会ではさらに深い話しも聞けて、PTが生まれた政治的背景、理論構築の要因、現在のヨーロッパにおける位置づけなど、興味深い内容ばかりでした。そして講演ではあまり言及されなかった、”情動”と思考やPTとの関係についての考えをお聴かせいただき、とてもよい意見交換ができまいた。本当に相原氏の考えの深さ、そして飽くなき探求心にも心打たれました。相原氏はこの考え方に豊かな社会をつくるヒントがあるのではないかと考え、研究を進めているようです。来年には第2報を行って下さるとの約束をいただき、散会しました。次回が楽しみです。

 

*『デカルトの誤り』ちくま学芸文庫、2010年、16頁 より